【第二回公募 “世界旅写真展” 審査総評】
昨年10月より作品応募を行っていました旅がテーマの公募コンテスト”第二回世界旅写真展”の審査が当ギャラリーにて行われました。こちらで審査風景と2名の審査員による総評を公開しています。
審査日|2014年12月22日(月)
応募期間|2014年10月15日~2014年12月15日

【審査総評】
第2回世界旅写真展 審査員
石川梵(写真右:以下B)/ 中村風詩人(写真左:以下K)
PHOTO|深澤宏太 ・ TEXT|アパートギャラリー
B|今最終審査に残っている人が12人いるけど、12人全員の作品を飾る訳にはいかないかな?
K|そうですね・・・その1枚を入れたい気持ちはとても良く分かるのですが、額はフォローできてもスペース的に12人の入選というのは厳しいです。またその1人の作品は、正直どこに入っても異色を放ちます。
B|分かりました、今回は11人の入選者ということで参りましょう。
K|元々は10人の予定ですが、11人でしたら何とかなりそうです。ところで全体的な印象としてはいかがでしたか?
B|選ばれるべくして選ばれる写真が最後に残ったと感じました。あとはプロ向けのコンテストだから当然かもしれませんが、全体的にレベルが高かったと思います。
K|特に印象に残っている作品などはありますか。
・・・おもむろに立ち上がる梵さん、その後に12人目と議論されていた方の写真を手に取る
B|やはりこの作品(※写真1)は入れたい。何か感じるんです。
※写真1
K|それでもやはり11人にする必要があります。当落線上にある1点、それならこれではないでしょうか。
中村はバライタで焼かれたチューリッヒの風景(※写真2)を手に取る
※写真2
K|沢山送られてきた中でプリント方法が特異だったこともあり目立ったままここまで残りましたが、よくよく見ていくと写真の画(え)自体はやや平凡かもしれません。
B|取り替えましょう。11人、これで最終入選者として揃いましたね。ひとつテーブルから外れながらも入選した作品はまさに「別れ道」ですね。(※写真3)こうしてみると素晴らしい作品ばかりですが、最後に見ていたアジアの写真(※写真1)とインドでストロボを使っていたもの(※写真4)は特に印象的です。
※写真4
K|別れ道・・・明暗を分けた机の間にありますしね(笑)。余談ですがこの写真についてはかなり長い時間議論を重ねました。「これは人生の岐路にあって、過去に住んだ場所で、まさに苦楽の末に辿り着いた景色だ」そんなストーリーを描きながら入選か落選かを悩んで、いざ応募票をみたら19歳だったという裏切りがありました。
※写真3
B|意外と写真というのは裏切りの連続ですよね。
K|そう。満場一致でこれは女性だ、とかこれは若さがある、といった事もことごとく裏切られましたね。
B|実年齢と精神年齢の違いですかね(笑)。
K|さて話を戻して、印象的とおっしゃっていたアジアの作品は、やはりご自身が行っている所だからですか?
B|それもありますね。ですが、それ以上に自分で想像の付かなかった撮り方というのもあります。あぁ、こういう撮り方もあるんだ、というような発見がありました。
K|私が印象的だったのはトルコの、おそらくリヒテンパシャジャーミーというモスクのタイルを撮った写真です。こちらの写真は是非入れたかった。実は今回、こういった新即物主義的とも言える写真を期待していました。私は「物も旅を語りえる」と思っています。このトルコの写真はその画的な完成度から最終選考で削ることとなってしまいましたが、次回も物が語る旅写真は大いに期待しているところです。
B|そうですか。印象的といえば中にはデジタル処理をしている写真もあって、その完成度が非常に高い事にはとても驚きました。
K|常態化したデジタル処理・・・。レベルが上がるのはいいことですが、確かにそれをどう評価するか、それは難しいところですね。前回「デジタル」か「フィルム」か、という議論をしたのですが、それについてはどうですか?
B|そういう意味ではどういう媒体か、どういうプリントかは大事ですが、最後はやはり「画」ですね。
K|最後にひとつのテーブルに最終候補者13人分の作品が並ぶと、こう展示されるというイメージが沸きました。ここまで来ると周りの作品との比較対象や相性の検討もなされました。
B|やはり展示候補という意味で全点並べると具体的なイメージが沸いてきますね。
K|普通のグループ展だとそれぞれが好きな写真を持ち寄って展示をすることが多いですが、今回のように1人のキュレーターが入って展示全体として見ること、これは『the family of man』のように、全体としてのクオリティコントロールがされる意味でひとつ価値があると思います。
B|そう。はじめは全体の構成を考えてという見方はしていなかったので、最後に並べた時に浅く焼いているパリの写真(※写真5)が来たことで展示としてまとまりが出た気がしました。旅への憧れを感じるような1枚・・・。
※写真5
K|シャンゼリゼ通りを凱旋門から写した1枚、それはまさに旅の象徴的な1歩のように美しかった。
B|旅ってどこか憧れがあるじゃないですか、どこかファジーなものじゃないですか。それが最近は情報があふれすぎて憧れが消えてきている側面があると感じています。
K|言い換えれば、誰もが氾濫する情報だけを見て行った気分になっているということですね。そういえば最終的には入選しなかったのですが、バングラデシュを写真と言葉で表現したもの(※写真6)はとても入れたかったですね。世界旅写真展はフォトライターなど文章を書く人も歓迎しているコンテストですので。
※写真6
B|でも最後は写真の勝負ですね。
K|はい、それは変わりません。最後に第3回に応募される方に何かメッセージを頂けますか。
B|よく自分探しの旅って聞きますけど、僕の場合はその感覚が無いんですね。僕は「人間とはどういう生き物か」、あるいは「地球とはどういうものか」を知りたくて旅をしています。そのためには自分の殻を破って旅をしないと分からないんですね。
K|殻を破るというのが、可能性をひろげていく、という事に繋がりそうですね。
B|あとは自分の地平ですね。そのとき自分のいる所からみた地平について考えることも大事です。
K|地平というと、地平線の?
B|そう。自分の地平から旅先を見るんです。・・・つまりは「今いる場所から旅先を見て、旅先から先程までいた場所を振り返って見つめ直す」という行為です。
K|川を隔ててこちら岸から向こうを見るのと、向こう岸からこちらを見るのは何か気付きがありそうですね。それに対岸としての関係性が生まれてきそうなワクワクを感じます。
B|私の作品のひとつからですが、「鯨漁」を現地で実際に見たとき、昔の日本を振り返った気がしました。日本で、あんな素朴な鯨漁をしていたのは、江戸時代までのことですけどね。それでも遠くインドネシアで絵巻物を開いたような感覚になりました。そして日本に戻ってから鯨漁について調べて、また旅にでる。
K|少しずつ手探りで進むような。
B|その繰り返しですね。
K|そうやって少しずつ磨き上げていけば、いつしか自分の中でその被写体が輝いてくるはず・・・。
B|まさにそう。今はカメラも良くなってみんな写真ができるようになって、誰もがいい写真を撮れるようになっている。でも求められているのは深い写真です。
K|僅か数ミリの薄い1枚の写真の中には深さという単位があるから面白いですね。それでは本展示やイベントでもよろしくお願いいたします。
B|展示、とても楽しみにしています。よろしくお願いいたします。
※応募者の方々への審査結果については2015年1月後半に順次郵送にてご連絡させていただきます。
PHOTO|深澤宏太 ・ TEXT|アパートギャラリー
【審査員紹介】
石川梵 -BON ISHIKAWA -
フランス通信社(AFP通信)を経て、1990年より写真家として独立。伊勢神宮の取材、アジア、アフリカ、南米など世界各地で撮影を行い、大自然とともに生きる人々の祈りの世界の取材をライフワークとする。また、1990年のヒマラヤ空撮をきっかけに、地球46億年をモチーフとした世界の空撮を世界各地で行っている。
国内主要誌の他、Life、National Geographic、Paris match、Geo、New York Times、Washington Postなど世界の主要新聞、雑誌で作品を発表。1998年写真集『海人』で講談社出版文化賞、日本写真協会新人賞受賞。2012年写真集『The Days After 東日本大震災の記憶』で日本写真協会作家賞受賞。
中村風詩人 – KAZASHITO NAKAMURA -
写真家。豪州留学、オセアニア一周、西欧一周、世界一周、南太平洋諸国一周、東南アジア一周を経て、2014年現在80カ国以上へ滞在、うち仕事として約35カ国を取材。海外撮影は政府観光局パンフレットや雑誌掲載他、現地通訳やインタビュー、紀行文の執筆までを担当することも多い。日本橋三越本店「旅写真の魅力」、京成百貨店本店「旅写真講座」、豪華客船上ホール「良い写真とは」などの講演会も行っている。